躯体防水の追跡調査と効果の検証
アストン社ならびにアストン協会では、平成6年(1994年)頃からコンクリート改質剤CS-21を使用したコンクリート構造物の躯体防水を施工しています。
コンクリート改質剤CS-21は、平成5年(1993年)に止水の補助材として製造が開始され当初は微細な空隙からにじみ出る水を止める材料として使用されていました。
その後改良と施工方法の確立により、躯体防水としての使用が開始され現在に至っています。
1.アストン協会員より報告のあった発注工事の実績
◆工法・用途別の集計(2015年9月時点)
工法・用途 | 施工件数 | 施工数量 |
防水(駐車場・屋上・床板) | 434件 | 約1028千㎡ |
防水(その他) | 235件 | 約210千㎡ |
表面保護 | 498件 | 約369千㎡ |
改修・断面修復 | 207件 | 約36千㎡ |
ひび割れ補修・漏水補修 | 222件 | 約45千㎡ |
打継ぎ部処理・木コン部処理 | 74件 |
2.調査対象物件
上記の施工実績に対し施工後の追跡調査は物件ごとに行われているが、今回は効果の検証を目的として同一工法で施工された物件を選定し、同一項目について追跡調査を実施した。
一般的に構造物の供用を開始すると調査は困難となる。
今回の追跡調査は比較的容易に確認出来る屋上自走式駐車場を選定し、10年以上経過した4物件と10,000㎡以上の6物件を対象として実施した。
◆竣工後10年以上経過した自走式駐車場防水の物件
物件名 | 施工面積 | 竣工年月 |
①家電量販店 屋上駐車場 | 2,100㎡ | 1998年2月 |
②パチンコ店 屋上駐車場 | 1,920㎡ | 1999年7月 |
③大型店舗 立体駐車場 | 15,270㎡ | 2002年4月 |
④食品工場 立体駐車場 | 1,575㎡ | 2002年5月 |
◆施工面積10,000㎡以上の自走式駐車場防水の物件
物件名 | 施工面積 | 竣工年月 |
⑤大型店舗 屋上駐車場 | 20,528㎡ | 2007年12月 |
⑥物流センター 立体駐車場 | 13,233㎡ | 2008年3月 |
⑦大型店舗 屋上駐車場 | 24,134㎡ | 2010年2月 |
⑧大型店舗 屋上駐車場 | 10,267㎡ | 2011年3月 |
⑨大型店舗 屋上駐車場 | 16,198㎡ | 2011年9月 |
⑩大型店舗 屋上駐車場 | 15,126㎡ | 2011年9月 |
3.調査方法と記載方法
現地調査を実施し、下記の項目について追跡調査表を作成した。
◇構造物の概要 調査概要
◇防水性能と経過
◇ひび割れ調査結果
4.調査結果
物件名 | 面積あたりのひび割れ | 自閉率 |
①家電量販店 屋上駐車場 | 0.475m/㎡ | 100% |
②パチンコ店 屋上駐車場 | 0.002m/㎡ | 100% |
③大型店舗 立体駐車場 | 0.240m/㎡ | 100% |
④食品工場 立体駐車場 | 0.110m/㎡ | 100% |
⑤大型店舗 屋上駐車場 | 0.043m/㎡ | 86% |
⑥物流センター 立体駐車場 | 0.039m/㎡ | 95% |
⑦大型店舗 屋上駐車場 | 0.013m/㎡ | 93% |
⑧大型店舗 屋上駐車場 | 0.004m/㎡ | 100% |
⑨大型店舗 屋上駐車場 | 0.005m/㎡ | 88% |
⑩大型店舗 屋上駐車場 | 0.006m/㎡ | 100% |
5.考察
◆竣工後10年以上経過の物件
自走式駐車場の躯体防水は工期短縮、重量の軽減など直接的メリットが有り、躯体防水工法の開発当初から使用されている。
平成10年当時は躯体の適用条件が確立されていなかったため、構造物により品質の程度に大差が生じている。
構造的に強固な物件では、ひび割れ跡がほとんど確認できない。
それに対して鉄筋量の少ない(たわみの大きい)構造物の場合、ひび割れは自閉し漏水は発生していないがひび割れ跡が多く確認できる。
調査の結果から下記のことが確認できる。
◇微細な乾燥収縮や温度変化に伴うひび割れは自閉して一体化し、目視では確認できなくなる。
◇水がほとんどかからない場所では表面までひび割れが埋まっていない箇所があり、自閉作用には水分の供給が不可欠である。
◇水勾配で下流側のひび割れが早く埋まる傾向が見える。
これは表面に付着している塗布した材料が、ごく微量であるが水と共に下流側に移動しているものと推測される。
◇コンクリートの表面は酸性雨等の影響も受け砂の表面が露出しているが、砂粒は剥離していない。
◇表面には汚れが付着しているが、水洗いすると容易に除去できる。
◆施工面積10,000㎡以上の物件
平成17年頃から、施工実績の積み重ねと経過観測結果からコンクリートの品質の基準化が進んだ事と、被覆防水の劣化に伴う多額の改修費用が問題視され大型物件での適用が増えてきた。
当初は構造体が大きいため日射による熱膨張の影響が懸念視されたが、ひび割れが一体化し応力が均等に分散されるとひび割れがほとんど動いていない事が確認できる。
調査の結果から下記のことが確認できる。
◇平成20年以降の物件については、躯体コンクリートの品質が防水基準に近づき目視で確認できるひび割れが極端に少なくなっている。
◇エレベーターホール、階段室など応力が変化する場所や、かぎ型など構造物のひねりが発生する場所でひび割れ表面が欠けて目立つ部分があるが、内部が埋まるまではCS-21の再塗布にとどめ、早期に表面を塞がない方が表面の傷が大きくならない。
◇打ち継ぎ箇所も、断面の確保、掃除後CS-21処理し打設することにより、問題は発生していない。
◇施工後1年未満の物件もあり、ひび割れが成長する可能性もあるため追跡調査が必要である。